NTTComを退職してスペシャリスト社員になって1年ちょっとたちました。

id:yuyarinさんの記事に触発されて、NTTComを退職したその後について、個人的な総括もかねて記事にしてみる次第です。私は2017年12月末に退職しましたので、スペシャリスト(プロフェッショナル)社員になって早いもので1年半弱経過しました。その中で感じたことをまとめてみます。

退職の経緯

私もNTTComを退職してスペシャリスト社員となる道を選びました。id:yuyarinさんと違うのは、NTTセキュリティ・ジャパン(以降、NSJ)という別のグループ会社に移ったという事です。

NTTComのセキュリティ部門→NTTコムセキュリティ(NTTComの子会社に)→NTTセキュリティ(持株会社の子会社に)という組織の変遷に合わせ、私自身もいわゆる「出向」という形で渡り歩いてきました。

下記の写真でもロゴが上下に並んでいるように、NSJとNTTComとは強い繋がりがあります。

news.mynavi.jp

その流れの中で、NSJの中のセキュリティ技術者(ログ分析やマルウェア解析、リサーチなどを行うセキュリティアナリスト)の評価制度の設計を手掛けさせていただいだいて、自らが制度に飛び込まないと示しがつかないだろうという考えやその他もろもろありNTTComを退職してスペシャリスト社員としてNSJへ移りました。

www.security-design.jp

ちなみにNSJでは「スペシャリスト社員」ではなく「プロフェッショナル社員」という呼称なので、以降そう記します。

プロフェッショナル社員の雇用形態ってどうなのよ?

セキュリティアナリストの雇用については、職務型(Job Description型)ではなく、ミッショングレード制を採用していますが、いずれにしても難しいのは、

  • 仕事をどう定義するか
  • 成果をどう評価するか

です。id:yuyarinさんのJDがどのような流れで定義されたのかは書かれていなかったためわかりませんが、私自身が丸1年間プロフェッショナル社員を体験して思ったのは、下記を会社と認識合せするのが非常に重要だということです。

  • 組織にどんなポジションが必要か
  • そのポジションのミッション
  • そのポジションの市場価値

私の上長や人事担当の方は幸いにもこういったことをしっかり考えていただける面々なので全く問題ないのですが、理解のない上長・人事担当が来てしまうと制度運用にかなりのブレが出ると思います。

ブレさせないために重要となるのは制度としての透明性です。私が制度設計するにあたってJD型にせずミッショングレード制を選択したのもこの点を重視したからなのですが、この話は長くなるので割愛。(制度自体はここで(PDF)ちょこっとだけ紹介していますのでご興味あればぜひ)

id:yuyarinさんにはぜひ今後も対外発信を継続することで無理矢理にでも透明化していただきつつ、内部的には人事とのタフネゴシエーションしていただけるとより良いものになっていくかと思います。私もNSJで引き続き頑張ります。

給料上がったの?

あがりました。かなり攻めの交渉をしました。「隗より始めよ」の状況を作り上げたかったので遠慮している場合ではありませんでした。他社の水準に負けず劣らず、役職もショートカットで課長のロールにあげていただきました。

仕事が違うので比較する意味があるかはわりませんが、私はid:kumagiさんより(文字数

どうやってそんなに?

5年ほど前から転職活動は少しだけしていました。社外での講演などをやるようになった2014年後半頃からどこからか流出しであろう私の名刺の電話番号やメールアドレス宛に人材コンサルタントから連絡が来はじめて、これも社会勉強かなと、何社か言われるがままに面談してみたりしていました。いわゆるサイバーセキュリティが市場的に沸いていたタイミングでもあり、外資やコンサル系の企業だと(GAFAではないですが)いきなり年収1,000万円から交渉がスタートできたりすることもあり、実力だけじゃなくタイミングも大事なんだなと思ったりしてました。

2015年にはセキュリティ技術を強みとした高度分析サービスとそれを支える新たなSOCチームを立ち上げ、様々な関係者の絶大なるご協力のもと、それらが起点となって技術者としてもビジネスマンとしても非常に大きな成果を残すことができました。社外においても「セキュリティ対応組織(SOC/CSIRT)の教科書」やそれに付随する「セキュリティ対応組織成熟度モデル」をISOG-J(日本セキュリティオペレーション協議会)の活動の中で書き上げて無償公開したり、SOCYETI(日本SOCアナリスト情報共有会)を立ち上げたり、自分なりに自分自身の市場価値を高めていたつもりです。

とはいえ最後は「交渉」です。ミッショングレード制ですので、自身が担う役割のレベルを上げれば給与は上がります。しかし、その役割をこなせなければ当然ながら給与は下がります。私の場合は「1年で給与が下がっても上等」と覚悟を決め、当時の実力よりも上の水準まで引き上げてもらうことにしました。

id:yuyarinさんも

スペシャリスト社員=給与アップというわけではありません。JDベースの仕組みですので、当たり前の話ですが、そのポジションの会社にとっての重要性や、その人に期待する役割などによって給料は決まります。

NTTComを退職してNTTComに入社します - show log @yuyarin

と書いている通り、雇用形態を変えればアップするというものではないということは十分にご留意ください。実績と覚悟を持って挑む必要があります。

で、1年たってどうなった?

2018年度は第二子の誕生というビッグイベントがあり、総労働時間も圧縮しているような

という中での契約更改を迎えることとなりました。結果として、ありがたいことに今期の契約更改では下がらなかったです。最大限に仕事を評価いただいて本当に感謝です。それにライフワークバランスも重視していただいて、本当にありがとうございます>会社。とは言え、手ばなしで万事OKということではなくて、「給与を下げるほどには想定と実績が乖離しなかったギリギリのライン」だったと捉えています。

プロフェッショナル社員に定期昇給はありませんし、管理職(管理監督者)となれば残業代もつきません。漫然と仕事していても給与は上がっていきません。常に自身の役割と成果を意識し続け、さらに上の役割を模索し、期待(というか設定)以上の成果を目指す必要があります。

なので緊張状態が途切れないと言いますか(私の場合かなり高いハードルを設定したのでなおのこと…)、ドラゴンボールで悟空が悟飯に「スーパーサイヤ人でいてそれがあたりまえの状態に持っていくんだ」「まずはスーパーサイヤ人になったときの落ちつかない気分を消すことからはじめたほうがいい」と言うシーンを何度も意識しました 笑。まだ慣れませんが、それでも初めの頃よりはマシになってきたと思います。

他にしんどいことは?

私より職位が高い人に比べて額面上は高い給料になっている場合もあります。NTTのような序列のある会社の中でこの状況は精神的に結構キツイです。

NTTComを退職してNTTComに入社します - show log @yuyarin

私も最初は同じように感じてました。が、実際にはこういった観点で嫌味を言ったり揶揄する人はいませんでしたし、むしろ「弊社は人材の確保、育成にも力を入れておりまして・・・」というくだりの一つの話題として「プロ化した社員もおります」と紹介してもらっていることもあるらしくて、今のところ良い反応の方が多いです。プロ化する人は増えていくでしょうし、良くも悪くも当たり前の話になっていくのも早そうだなという印象です。

他に良かったことは?

退職金。このあたりの手厚さは本当に大企業はすごいなと思いました。プロフェッショナル化したのでもうもらえないですが…

私は四人家族ですが何かあっても多少は耐えられるなと。あるいは、本来は老後の備え的なものなのかもしれませんが例えば子供達の教育資金として今使う選択肢も生まれるわけです。もちろんそうしてしまうと夫婦の老後生活の雲行きが怪しくなるわけではありますが、子供のためならという想いも強く。とは言え老後に妻を困らせたくないのでiDeCoは始めました 笑。(あと団体長期障害所得補償保険(GLTD)も念の為)

Why NTT Security?

昔の記事にも書きましたが、

「尖った人材を会社にとどめておくには、従来のキャリアパス以外に専門的な生き方を担保するためのキャリアパスも選択肢として用意しなければならないのだ。福利厚生が充実し、それなりの給与が支払われているだろうNTTグループでさえも、そうせざるをえないくらい人材市場が変化しているのだ。」 まずひとつめとして、今回のキャリアチェンジがそういうメッセージになりうるのではないかな、なったらいいな、と。色々な企業の人事担当さんに響けば嬉しいなと思っています。

セキュリティを生業とする私が、働き方改革したくて不退転職した話 - Security along DesigN

というのが一つあります。(NSJというかNTTとしてって感じですが。)

NTTという看板が持つネガティブな印象もポジティブな印象も全部飲み込んだうえで、他のトラディショナル・ジャパニーズ・カンパニーを巻き込んだムーブメントのスターティングポイントとなるべきだと思うのです(横文字)。

あとはやはり規模です、具体的に出せる数字がなくて申し訳ないのですが、生み出せる成果が非常に大きい(時があります)。NTT系と言えど、NTTセキュリティは買収した海外企業の融合体なので、グローバルでのサービスや運用の展開を色々な国のメンバーと進めていくことができます。

大きなテコが上手く動いたとき、分散したテコが一つの方向に向いたときのパワーは凄まじいものがあり、これが大企業の強みなんだろうと思います(悪い方向に行かなければ)。

企業で生き抜くための「組織のてこの原理」 - Security along DesigN

あとは自由度でしょうか。私としては安心安全を世の中に提供したくてセキュリティをやっていて、個人でもチームとしても色々なものを生み、サービスだけでなくお届けできるように頑張っていますが、組織としての体力もあるのでかなり自由にやっています。

すでに紹介済みですが「Inside “Security Operation Center” ~セキュリティ人材を生かす5つの改革~」とか会社ぐるみで頑張ってます。

こういった環境で、昨日ちょっと頑張れたなー、今日はこれやってみよー、明日は何ができるかなーって前向きに仕事できてるんですよね。これって実際にはかなり難しいことなので、とてもいいなぁと。

ちなみに

こういったキャリアパスは今に始まったわけではありません。昔からこういったスペシャリスト的なキャリアを選択して歩んでいる方はいらっしゃいます。NTT主要会社の方で数年前にスペシャリストに移ったという先輩社員から直接話を聞く機会があり本当に勉強になりました。きっと他にもこういうキャリアを築いてきた方はいるのだろうと思います。タブー視せずにもっといろいろな人の話を聞けるような場所を作っても良いのかもしれません。

さいごに

終身雇用はもう守られないらしいので、「私は生きるために会社の歯車になります」ではなくて「会社は私が幸福に生きるための歯車です」という考え方もありだと思っていて、そのために会社員である自分がどうあるのが幸せなのかしっかり考え抜くべき時代なのかなと。(会社も自分も幸せであれるのがモアベターです。)

スペシャリスト・プロフェッショナルな働き方だけでなく、はたまた会社員ではない、あるいは会社員と何かの組み合わせなど(私も会社員+個人事業を始めました)、色々な働き方・生き方が切り開かれていくといいなと思います。

子供が大きくなるまでに、生き方の選択肢が今よりも多い社会を作り上げられるような貢献ができたとしたら、私は幸せに死ねる気がします。

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